2021/02/01 にわか教師の春

 朝の通勤途上、新聞紙ほどのサイズの案内板を手に

交差点に立つ女性を見かけた。そのボードには

「〇〇女子大学 入学試験会場、こちら」とあった。

少子化だけではない。コロナ禍の影響で今年度は

地方試験の会場を増やした大学も多いと聞く。

受験の季節である。

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 かくいう私も新年度から始まる大学講義の準備を始めている。

(いちおう週に1コマだけ受け持つ"にわか先生"なのだが)

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 写真は1年前、国立長野高専(長野市)で行った特別講義の私。

4月から松本キャンパスで受け持つことになる通常講義は

原則「対面授業とする」というのが大学側の方針なのだが、

さて、予定通りになるかどうか。

 自宅や自室でじっとリモート授業を重ねた学生も多いはず。

何の気兼ねもなく教室に通える、そんな春であって欲しいのだが。

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 教室という空間で「人と会い」「人と語る」ことでしか

始まらないものがある。先日放送したドキュメンタリーで

主人公の先生(故人)が話しておられた言葉がよみがえる。

 

2021/01/12 ハタチの背中

 式典もなく、かつての友人同士で集まる場もなく。

成人の日のきのう、長野市内は穏やかな印象だった。

道行く晴れ着姿も見かけることもない。

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 かくいう我が家は、今年二十歳になる息子とともに

昔お世話になった近所の老夫婦の墓前へ成人の報告に。

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 観音の石像が並ぶ杉木立の奥に老夫婦は眠っている。

足跡のない雪を踏み分けながら坂道を登る。

かつて数軒先のご近所にあった二人の家は、

ようやく歩きはじめた息子の遊び場でもあった。

実の祖父母以上にお世話になったといってもいい。

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 二十歳を迎える祝い、というよりも

この歳まで何とか育ったことに感謝する日。

そんな成人の日であっていいような気がする。

19年前、私の両掌にすっぽり収まっていた息子は、

いま両手で墓石の雪をかき分け線香を手向けていた。

手を合わせる背中がいつもより大きく見える。

あれ?その着てるコート、オレのなんだけど・・・・・・。

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2021/01/05 初仕事は「教室」

 私にとっての今年の仕事始めは

ドキュメンタリーのナレーション収録。

ですが、いつもの収録とはちょっと違いました。

現役の女子大学生の「語り」と半分ずつ、なのです。

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 録音ブースのモニターに映るのは高校の教室から見えるイチョウ。

語りをつとめる大学生・西尾遥さんは、去年この高校を卒業したばかり。

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 番組では、45年前の卒業生と担任が母校の教室に集います。

それも同級会ではなく「ホームルーム=HR」というかたちで。

この取り組みが、なぜ十年以上も続いているのか?

当時、高校の放送委員だった西尾さんがHRを取材した

映像を織り交ぜながら物語は進んでいきます。

やがて、授業でも同窓会でもない「HR」であることの意味が

見えてきます。そこに集う先生と生徒の思いも。

そして・・・・・・。

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 教室という空間に帰りたくなる一本。そう感じました。

高校卒業1年目の現役大学生・西尾さんの語りと、

高校卒業37年の小生のナレーションのコラボにも

耳を傾けていただければ幸いです。

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●「チャンネル4 黄葉(こうよう)伍朗ちゃんがいる教室」

●1月9日(土)午前9:30~10:25

(※テレビ信州×松本深志高校放送委員会 共同制作) 

             

2021/01/04 太郎の屋根に

 たいして働いたわけでもないのですが、

年末年始にやった雪かきの筋肉痛が

今頃になって襲ってきている始末です。

またひとつ年(齢)をとったか、と実感。

降りしきる雪の中、

ひたすらスコップを動かしていたら、

昔読んだ一節が不意に思い出されました。

         ✤

太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪降りつむ。

次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪降りつむ。

     (三好達治「雪」1930年)

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 この年末年始、子や孫の顔を見るのを待ちわび、

叶わなかった大人たちがどれほどいたことか。

父母や祖父母と一緒に卓子を囲めなかった

子供たちがどれほどいたか、と考えます。

         ✤

 新しい年は、多くの太郎や次郎たちが

普通に家族と会える年になってくれたら。

そんなことを思っています。

 今年もどうぞ宜しくお願いたします。

2020/12/27 神様に会った日

 10年ほど前のこと。ピアニストは松本市内の映画ロケの現場を訪れ、

その直後に市内のホールで行われたテーマ音楽の収録に臨んだという。

「実は"一発録り"だったんです」

そう話すピアニストは、まるで昨日の事のように嬉しそうだった。

先週のクリスマス、辻井伸行さんに初めてお目にかかった。

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 "コロナの年"を締め括るツアーリサイタルの最終日が信州・松本。

しかも、かつて映画音楽を収録した同じホールでというご縁。

この日、私は「演奏家が考えるコロナと音楽」というテーマで

リサイタル直前の辻井さんにお話を伺う機会を得た。

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 動画配信や無観客演奏など、様々な試行錯誤を経てようやく

秋頃から観客のいる場でピアノが弾けるようになった。

そのことが今とても嬉しいのだと辻井さんは話して下さった。

 そして「news every.」のカメラの前で自ら選んで弾いた1曲が

映画『神様のカルテ』エンディングテーマ(辻井さん自身の作曲)。

かつて同じホールで"一発録り"したというあの作品だ。

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 演奏時間4分14秒。立ち会った私には夢のような時間だった。

2台のテレビカメラが回るステージ上で辻井さんは、

またしても"一発録り"で収録を終えた。 

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「コロナで人同士の距離が離れてしまうけれど、

 でもせめて気持ちだけは近くに寄り添えたら。

 音楽ならそれをつなげると思うんです」  

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 2020年のクリスマス。私は音楽の神様に出会えたと思っている。       

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