2021/03/25 桃紅さんのこと

最近、何度も何度も読み返している1冊がある。

『103歳になってわかったこと』(幻冬舎新書/2015年)。

美術家の篠田桃紅(しのだ・とうこう)さんの著書だ。

ご存命であれば、今週末28日が108歳の誕生日だった。

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3年前、上田市で開かれた作品展に合わせ

桃紅さんの道程を辿ったドキュメンタリー制作に

関わらせてもらった。著書もその時に購入したものだ。

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海外旅行に行く日本人が年間数万人の時代に、

独り和服姿でアメリカ行きの旅客機に乗り込んだ桃紅さん。

その自由闊達な画風(書風)で世界のファンに愛された。

「誰の真似でもない。私だけの書き方」

「弟子なんかとろうと思ったことは一度もない」

「人はひとりっきりで生まれてくるんです。

 そしてひとりっきりで死ぬんですよ」

 (テレビ信州のインタビューより)

その力強く歯切れよいひと言ひと言が

見る者、聴く者の背中を押してくれる。

孤独がすなわち寂しいものではない、

孤独とは時に豊かなものである。

桃紅さんの姿勢から、私はそんなことを教わった。

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生涯独身、ひたすら水墨と紙に向き合った

篠田桃紅さん、享年107。

訃報から3週間。あの番組は私にとって宝物である。

2021/03/18 伊那谷とワクチン

使い込まれた木製の机(写真)。

私が小学生の頃、まだ木造だった校舎の片隅に

こんな机があったような記憶がある。

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実はこれ、上伊那郡飯島町の小学校で実際に使われていた。

時代は1945年=終戦当時のことだから

学校名も「国民学校」と呼ばれていた時代である。

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この机の中から見つかった"ある物質"が、

当時の伊那谷で「ワクチン」が製造されていた証しだという。

ワクチンといえば世界が感染症に委縮する現代だが、

時は70数年前に遡る。誰が、何の目的で?

その答えは「軍」、つまり日本軍である。

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極秘裏に行われていたというワクチン製造の背景には、

終戦間際の軍が進めていた化学兵器に関わる一面も

垣間見えてくる。

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木下歌織アナウンサーが数年かけて取材した戦争史の一端。

今夕18:15~の「news every.」にご注目いただきたい。

2021/03/15 豪雪の村から

長野市から高速と一般道を乗り継いで

北へ向かうことおよそ1時間半。

新潟県境が近付くにつれ、風景が白くなっていく。

下水内郡栄村は大人の背丈を超す雪の中にあった。

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「たしかに暖かくはなったが、まあ雪はこんなもんだな」

集落で出会った老人が笑いながら教えてくれる。

長野県北部地震から10年の節目。栄村を訪ねた。

この10年で村の人口は4分の3に減り、

65歳以上の高齢者の割合は人口の5割を超えた。

住民数が1ケタになった集落もあるという。

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「地震がなければ、こんなには減らなかっただろうに」

住民が漏らした言葉が重かった。

建て直され、改修された住宅地のすきまで

雪に埋もれた空き地や更地の多くが、

かつて家があった場所であることを忘れがちになる。

それは「復旧」であって、まだ「復興」ではない。

この意味の違いも、忘れてはならないと改めて思う。

2021/03/08 マエストロの涙

 アンコール演奏を終えた直後、2000人近い観客が

一斉に立ち上がって拍手する現場に立ち会ったとき、

モニター越しとはいえ、私も総身に鳥肌が立った。

              ◇

 先週末、佐渡裕さんが指揮するオーケストラ演奏会の

影アナ(場内アナウンス)という大役を仰せつかった。

"マエストロ=巨匠"の敬称を持つ佐渡さんとは初対面。

加えてソロ参加のピアニストは日本を代表する若手、反田恭平さん。

こちらは過去に何度もインタビューにお付き合い頂いた方である。

「お久しぶりです、元気でした?」

控室前の通路で目が合うと、彼の方から気さくに声をかけて下さる。

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 コロナ禍で、これまで客席入場率を50%に制限していたものを、

今回初めて100%にしての試み。私たち舞台裏のスタッフにも

正直かなりの緊張感があった。

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 舞台袖の影アナ席(写真)からは、客席が埋まっていく様子が

天井カメラのモニター映像で常に見えている。

開演5分前に座席がほぼ埋まった。こんな光景は実に久しぶりだ。

              ◇

「間もなく開演いたします・・・・・・」

このアナウンスを最後に、あとは舞台上から伝わる音と震動と熱気を

ひたすら感じ続けた2時間だった。

これを"役得"と言わずして何と言おうか。

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 終演後、バックヤードの通路でマエストロと暫し話す機会を得た。

「素晴らしかったです」

「うん、みんな(演奏者)良かったなあ」

やや疲れたように見えた佐渡さんに、満面の笑みが浮かんだ。

これから翌日の公演地である栃木県足利に向かうという。

「足利では子供たちの指導があるんです。何年も続いててね」

若い音楽家たちの話をするマエストロは、本当に嬉しそうだった。

              ◇

 帰路につくお客さんの会話が通路のドア越しに聞こえる。

「佐渡さん、涙ぐんでたね」「すっごく嬉しそうだったもの」

アンコールを終えたマエストロが、目に涙を浮かべながら

客席に向かって何度も挨拶されていたことを後になって知った。

              ◇

『今、世界がバラバラになってる中で誰かと時間を共有する、

 ひとつの空気の震動が喜びなんです。これは音楽の神様が

 与えてくれたもの。僕にはそれを届ける使命があるんです』

  【佐渡裕さん談 「news every.」インタビューより抜粋】

2021/02/04 こんな出前が!

 教室に響く園児の歓声を間近で聞いていたら、

なるほどリモートであっても映像の力は凄いな、

と感じ入った次第。

 コロナの影響で休館している北安曇郡小谷村の

イベント「チームラボ」が長野市のこども園に

「出前」をしたのです。

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 手描きの絵が、デジタル技術によって目の前の壁を泳ぎまわる姿は

まるで本物の水族館にいるよう。

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①原画を丹波島こども園(長野市)の園児たちが色付け

②小谷村に持ち帰り、読み取った魚を会場の空間に投影

③それを撮影した動画を園児に届ける という3段階。

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 手作業で「塗り絵」をした魚やカメやイカが本物のように

ユラユラと泳ぎ回る様は大人が見ても感激です。

 出前という工夫で子供たちの"いい顔"が見られた今回の取材。

今夜の「news every.」で、その顔と泳ぎを是非ご覧あれ。

 

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