最近、何度も何度も読み返している1冊がある。
『103歳になってわかったこと』(幻冬舎新書/2015年)。
美術家の篠田桃紅(しのだ・とうこう)さんの著書だ。
ご存命であれば、今週末28日が108歳の誕生日だった。

3年前、上田市で開かれた作品展に合わせ
桃紅さんの道程を辿ったドキュメンタリー制作に
関わらせてもらった。著書もその時に購入したものだ。
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海外旅行に行く日本人が年間数万人の時代に、
独り和服姿でアメリカ行きの旅客機に乗り込んだ桃紅さん。
その自由闊達な画風(書風)で世界のファンに愛された。
「誰の真似でもない。私だけの書き方」
「弟子なんかとろうと思ったことは一度もない」
「人はひとりっきりで生まれてくるんです。
そしてひとりっきりで死ぬんですよ」
(テレビ信州のインタビューより)
その力強く歯切れよいひと言ひと言が
見る者、聴く者の背中を押してくれる。
孤独がすなわち寂しいものではない、
孤独とは時に豊かなものである。
桃紅さんの姿勢から、私はそんなことを教わった。
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生涯独身、ひたすら水墨と紙に向き合った
篠田桃紅さん、享年107。
訃報から3週間。あの番組は私にとって宝物である。
使い込まれた木製の机(写真)。
私が小学生の頃、まだ木造だった校舎の片隅に
こんな机があったような記憶がある。

実はこれ、上伊那郡飯島町の小学校で実際に使われていた。
時代は1945年=終戦当時のことだから
学校名も「国民学校」と呼ばれていた時代である。
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この机の中から見つかった"ある物質"が、
当時の伊那谷で「ワクチン」が製造されていた証しだという。
ワクチンといえば世界が感染症に委縮する現代だが、
時は70数年前に遡る。誰が、何の目的で?
その答えは「軍」、つまり日本軍である。

極秘裏に行われていたというワクチン製造の背景には、
終戦間際の軍が進めていた化学兵器に関わる一面も
垣間見えてくる。
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木下歌織アナウンサーが数年かけて取材した戦争史の一端。
今夕18:15~の「news every.」にご注目いただきたい。
長野市から高速と一般道を乗り継いで
北へ向かうことおよそ1時間半。
新潟県境が近付くにつれ、風景が白くなっていく。
下水内郡栄村は大人の背丈を超す雪の中にあった。

「たしかに暖かくはなったが、まあ雪はこんなもんだな」
集落で出会った老人が笑いながら教えてくれる。
長野県北部地震から10年の節目。栄村を訪ねた。
この10年で村の人口は4分の3に減り、
65歳以上の高齢者の割合は人口の5割を超えた。
住民数が1ケタになった集落もあるという。

「地震がなければ、こんなには減らなかっただろうに」
住民が漏らした言葉が重かった。
建て直され、改修された住宅地のすきまで
雪に埋もれた空き地や更地の多くが、
かつて家があった場所であることを忘れがちになる。
それは「復旧」であって、まだ「復興」ではない。
この意味の違いも、忘れてはならないと改めて思う。
アンコール演奏を終えた直後、2000人近い観客が
一斉に立ち上がって拍手する現場に立ち会ったとき、
モニター越しとはいえ、私も総身に鳥肌が立った。
◇
先週末、佐渡裕さんが指揮するオーケストラ演奏会の
影アナ(場内アナウンス)という大役を仰せつかった。
"マエストロ=巨匠"の敬称を持つ佐渡さんとは初対面。
加えてソロ参加のピアニストは日本を代表する若手、反田恭平さん。
こちらは過去に何度もインタビューにお付き合い頂いた方である。
「お久しぶりです、元気でした?」
控室前の通路で目が合うと、彼の方から気さくに声をかけて下さる。

コロナ禍で、これまで客席入場率を50%に制限していたものを、
今回初めて100%にしての試み。私たち舞台裏のスタッフにも
正直かなりの緊張感があった。

舞台袖の影アナ席(写真)からは、客席が埋まっていく様子が
天井カメラのモニター映像で常に見えている。
開演5分前に座席がほぼ埋まった。こんな光景は実に久しぶりだ。
◇
「間もなく開演いたします・・・・・・」
このアナウンスを最後に、あとは舞台上から伝わる音と震動と熱気を
ひたすら感じ続けた2時間だった。
これを"役得"と言わずして何と言おうか。

終演後、バックヤードの通路でマエストロと暫し話す機会を得た。
「素晴らしかったです」
「うん、みんな(演奏者)良かったなあ」
やや疲れたように見えた佐渡さんに、満面の笑みが浮かんだ。
これから翌日の公演地である栃木県足利に向かうという。
「足利では子供たちの指導があるんです。何年も続いててね」
若い音楽家たちの話をするマエストロは、本当に嬉しそうだった。
◇
帰路につくお客さんの会話が通路のドア越しに聞こえる。
「佐渡さん、涙ぐんでたね」「すっごく嬉しそうだったもの」
アンコールを終えたマエストロが、目に涙を浮かべながら
客席に向かって何度も挨拶されていたことを後になって知った。
◇
『今、世界がバラバラになってる中で誰かと時間を共有する、
ひとつの空気の震動が喜びなんです。これは音楽の神様が
与えてくれたもの。僕にはそれを届ける使命があるんです』
【佐渡裕さん談 「news every.」インタビューより抜粋】
教室に響く園児の歓声を間近で聞いていたら、
なるほどリモートであっても映像の力は凄いな、
と感じ入った次第。
コロナの影響で休館している北安曇郡小谷村の
イベント「チームラボ」が長野市のこども園に
「出前」をしたのです。



手描きの絵が、デジタル技術によって目の前の壁を泳ぎまわる姿は
まるで本物の水族館にいるよう。
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①原画を丹波島こども園(長野市)の園児たちが色付け
②小谷村に持ち帰り、読み取った魚を会場の空間に投影
③それを撮影した動画を園児に届ける という3段階。
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手作業で「塗り絵」をした魚やカメやイカが本物のように
ユラユラと泳ぎ回る様は大人が見ても感激です。
出前という工夫で子供たちの"いい顔"が見られた今回の取材。
今夜の「news every.」で、その顔と泳ぎを是非ご覧あれ。