アンコール演奏を終えた直後、2000人近い観客が
一斉に立ち上がって拍手する現場に立ち会ったとき、
モニター越しとはいえ、私も総身に鳥肌が立った。
◇
先週末、佐渡裕さんが指揮するオーケストラ演奏会の
影アナ(場内アナウンス)という大役を仰せつかった。
"マエストロ=巨匠"の敬称を持つ佐渡さんとは初対面。
加えてソロ参加のピアニストは日本を代表する若手、反田恭平さん。
こちらは過去に何度もインタビューにお付き合い頂いた方である。
「お久しぶりです、元気でした?」
控室前の通路で目が合うと、彼の方から気さくに声をかけて下さる。
コロナ禍で、これまで客席入場率を50%に制限していたものを、
今回初めて100%にしての試み。私たち舞台裏のスタッフにも
正直かなりの緊張感があった。
舞台袖の影アナ席(写真)からは、客席が埋まっていく様子が
天井カメラのモニター映像で常に見えている。
開演5分前に座席がほぼ埋まった。こんな光景は実に久しぶりだ。
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「間もなく開演いたします・・・・・・」
このアナウンスを最後に、あとは舞台上から伝わる音と震動と熱気を
ひたすら感じ続けた2時間だった。
これを"役得"と言わずして何と言おうか。
終演後、バックヤードの通路でマエストロと暫し話す機会を得た。
「素晴らしかったです」
「うん、みんな(演奏者)良かったなあ」
やや疲れたように見えた佐渡さんに、満面の笑みが浮かんだ。
これから翌日の公演地である栃木県足利に向かうという。
「足利では子供たちの指導があるんです。何年も続いててね」
若い音楽家たちの話をするマエストロは、本当に嬉しそうだった。
◇
帰路につくお客さんの会話が通路のドア越しに聞こえる。
「佐渡さん、涙ぐんでたね」「すっごく嬉しそうだったもの」
アンコールを終えたマエストロが、目に涙を浮かべながら
客席に向かって何度も挨拶されていたことを後になって知った。
◇
『今、世界がバラバラになってる中で誰かと時間を共有する、
ひとつの空気の震動が喜びなんです。これは音楽の神様が
与えてくれたもの。僕にはそれを届ける使命があるんです』
【佐渡裕さん談 「news every.」インタビューより抜粋】