10年ほど前のこと。ピアニストは松本市内の映画ロケの現場を訪れ、
その直後に市内のホールで行われたテーマ音楽の収録に臨んだという。
「実は"一発録り"だったんです」
そう話すピアニストは、まるで昨日の事のように嬉しそうだった。
先週のクリスマス、辻井伸行さんに初めてお目にかかった。
"コロナの年"を締め括るツアーリサイタルの最終日が信州・松本。
しかも、かつて映画音楽を収録した同じホールでというご縁。
この日、私は「演奏家が考えるコロナと音楽」というテーマで
リサイタル直前の辻井さんにお話を伺う機会を得た。
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動画配信や無観客演奏など、様々な試行錯誤を経てようやく
秋頃から観客のいる場でピアノが弾けるようになった。
そのことが今とても嬉しいのだと辻井さんは話して下さった。
そして「news every.」のカメラの前で自ら選んで弾いた1曲が
映画『神様のカルテ』エンディングテーマ(辻井さん自身の作曲)。
かつて同じホールで"一発録り"したというあの作品だ。
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演奏時間4分14秒。立ち会った私には夢のような時間だった。
2台のテレビカメラが回るステージ上で辻井さんは、
またしても"一発録り"で収録を終えた。
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「コロナで人同士の距離が離れてしまうけれど、
でもせめて気持ちだけは近くに寄り添えたら。
音楽ならそれをつなげると思うんです」
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2020年のクリスマス。私は音楽の神様に出会えたと思っている。