きょうはごく私的な話を書くことをお許し願いたい。
この1年余り、足繁く通った建物が間もなく取り壊される。
去年の台風災害で1階天井近くまで泥水に浸かった1軒の住宅。
実は、私の叔父夫婦の家である。ともに80半ばを過ぎた2人は
ここに家を再建することを諦め、今は高齢者施設で暮らす。
秋の終わり、2人に代わって現地での住居解体手続きを終えた私に、
隣に住むMさんご夫婦が声をかけて下さった。
叔父夫婦がこの地に住んでから半世紀近いお付き合いである。
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「そう、壊すのかね。じゃあもうここには住まないんだね」
「この花、毎年よく咲いててね。私らも見るのが楽しみだったんだよ」
Mさんの視線の先には、庭先で叔母が育ててきたひと株の椿があった。
1年前、泥にまみれて葉の色さえ見えなかった樹は、
いつの間にか艶やかな緑の葉を茂らせている。
あの椿は今頃、Mさん宅の庭に引っ越しを終えているはずである。
叔父夫婦がいなくなった後も、冬ごとにずっと花を咲かせるのだろう。
長沼に暮らすどれほどの人たちが、長くいとおしんだ家や庭を失ったのか。
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台風災害から2度目の師走。年が暮れる頃、あの椿を育てた小さな庭は
更地に変わっているはずである。