2004年度の取り組み
開田村立開田中学校
<対象>全学年(43名)

今回の出前授業は、生徒たちの「自己表現力」の伸長を目的として「総合的な学習の時間」の中で行われました。

普段は、情報の受け手側である生徒たちですが、今回はテーマ探しを含め、実際に3分間のテレビ番組作りに携わることで、情報を発信する送り手側の立場を体験します。  
 
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取り組み経過
6月1日(火) [第1回出前授業] テーマ:「テレビってナニ?」
.【1】テレビ局スタッフによるテレビの仕組みについての授業
神田耕一郎業務局長は、民間放送の仕事について説明。
「スポンサー」や「スポット」など、普段聞きなれない言葉に、生徒たちは興味深々のようでした。
【2】ワークショップ①
  『君たちはテレビに騙されやすい?』
イギリスBBCのVTRを視聴し、感想を述べてもらいました。
内容は、エイプリルフールの日に放送された、スパゲッティーが木になるというお話。
生徒たちの多くは、「テレビニュースは信じられない」と最初から嘘を見抜いていました。
【3】ワークショップ②
  『5コマの紙芝居を用いて自由にストーリーを作るゲーム』
(東大大学院情報学科 メルプロジェクトの教材)
  侍、紙、刀が描かれた5枚のカードを自由に並び替え、生徒たちに物語を作ってもらいます。
物語のタイトルも生徒たち自身で決定。
  6~7名で班を作り、物語を作成中の生徒たちの様子。
班員で話し合いながら、絵を並び替えて行きます。
3年生のある班(男子3名、女子3名)では、カードに直接ストーリーを書き込んでいました。
完成した各班の紙芝居。偶然にも最後の場面はどの班も同じものになりました。
前に出て、完成した物語を班ごとに発表します。
[各班の作品と好評]
1学年 ①班 タイトル「たそがれ」
① 湖に浮く紙
② それを見つめる人
③ 刀をふりかざす
④ 切れた紙
⑤ 静まり返る湖
スタンダードな流れで独特な発想はありませんが、詩情あふれる物語にまとめられています。
紙芝居の絵を素直に受け止めた作品です。
1学年 ②班 タイトル「Myしあわせ」
① ある1枚の紙
② 私には幸せが必要なのだ…
③ 切る!!
④ 婚約届けが切れちゃった~
⑤ やっぱ切るんじゃなかった…無念
紙を婚約届と受け取める姿勢に発想の意外性が。
話の詳細は分からないけれど何か秘められたストーリー性が感じられる作品です。
2学年 ①班 タイトル「俺の自慢」
① シュパッ
② シーン
③ な!?切れねえ!
④ スパッ
⑤ 切れたよぉー
音が主で話の内容には具体性が欠けています。
タイトルと物語の内容が対応しておらず、話にストーリー性は感じられません。
しかし、全ての作品の中で最も端的に場面場面を捉えた作品です。
2学年 ②班 タイトル「牛カムバック」
① 水面に浮かぶ紙1枚…
② 「チャキーン」
③ 「パッカリ」
④ 「フ、またつまらんものを…」
⑤ 「ギュルルルー…牛丼くいてぇ…」
通りかかった教諭の言葉に反応して出来上がった作品。
タイトルとのつながりがなく、その点は不明ですが、周囲の何気ない一言にも反応し、それを生かそうとする生徒の柔軟性、反応の迅速さが感じられます。
3学年 ①班 タイトル「ラヴレター」
① 「ぬ!あんな所にラヴレターが!?」
② 「あの鳥のか…。よしっ切っちゃえ!!」
③ 「スパンッ」
④ 「・・・・」
⑤ 「おれも今度ラヴレター送ろっと。」
紙芝居の中に実際に表情や言葉をかき込み、物語りを自分流に書き換えた結果、発想の転換の大きい作品に。
刀の場面があるにも関わらず、話は楽観的な明るいものに仕上がっています。
3学年 ②班 タイトル「広志と紙」
① 似顔絵の描かれた紙が流れてきた。
② こしひろえもんが剣を握りしめた。
③ ヤーーーー
④ スパッ、紙を切った。
⑥ また、つまらぬものを切ってしまった。
友人を主人公にした作品。
発想の意外性はないけれども、一連の流れの中に話をコンパクトにまとめられています。
状況説明と効果音との両方が適度に取り込まれ、話の中に山場が作られています。
このように、今回、同じ絵を使って生徒たちに物語を作成してもらいましたが、一つとして同じものはありませんでした。
明るいものからしんみりするものまで様々です。
「情報は同じでも、その受け止め方は人によって様々」、この点が実感できるワークショップでした。
【4】番組作りに向けて
  番組作りの前に、実際に番組制作に携わるテレビ信州のディレクターから番組の制作態勢について話を聞きました。
そして各学年ごと、ディレクター、カメラマン、リポーター、ナレーター、編集(構成)に役割を分担、いよいよ番組作りに挑戦です。
スタッフが制作スタッフ(プロデューサー、ディレクター、カメラマン、リポーター、ナレーター、編集等)の構成と役割を説明、3班編成に。
番組の制作体制について語る稲村享志ディレクター
▲UP
6月7日(月) [第2回出前授業] テーマ:「作品を作る」 目標:「制作ノウハウを学ぶ」
【1】実技指導
いよいよ番組作りが始まります。
まず、テレビ信州スタッフが番組作りの基本について話します。
  インタビューやリポートの仕方ついて説明を受ける生徒たち。
「はい・いいえ」で答えられてしまう質問の仕方は避けること、条件を削ってしまうと結論が変わってしまうこと、など注意点について説明を受けました。
  映像の特性と撮影、編集のイロハについて語る坂橋宏明カメラマン。
実際に先生の歩く姿を撮影し、その場で鑑賞してもらいます。
撮影する角度や距離、動作などによって様々な映像が出来上がること、伝えたいものを伝えるためには、撮影にも多くの工夫が必要だという点について語りました。

また、問題となっている「ヤラセ」について、どこまでが「演出」でどこからが「ヤラセ」になるのか、難しいテーマについても取り上げました。
【2】企画会議
  各班(学年)に分かれて話し合い、制作作品のテーマを決定します。
 
1年生 担当 稲村享志ディレクター
初めの内、周囲に遠慮して積極的に自分の意見を出そうとする姿勢が見られず、ディレクターは何とか意見を引き出そうと、各自のアイディアを紙に書くよう提案しました。
木曽馬、景色、自然、御嶽山、歴史の名所・・・
候補は挙がりますが、具体的な題材となると話が進みません。
そこで、「自分がカメラマンだったらこんなものを撮りたい!というように自分の立場でやりたいことを考えてみて」と稲村ディレクター。
具体的な内容までは決まりませんでしたが、テーマは「開田の景色」で一致しました。
 
2年生 担当 飛田厚史アナウンサー
「開田高原の紹介」にテーマが決定している2年生。
「開田ドキュメンタリー、開田ロマン、開田のあれこれ・・・」、工夫を凝らした番組タイトルが次々に挙がります。
消去法で良いアイディアだけを残していく飛田アナウンサー。
「これは無理じゃないの?」という生徒にも、「工夫次第で何でもできることを念頭に置くように」とアドバイス。
その結果、タイトルは「開田のことおしえちゃいます」に決定。
ソフトクリームやチーズといった具体的な題材も挙げられていました。
 
3年生 担当 坂橋宏明カメラマン
話し合いが進まず、テーマがなかなか決定しない3年生。
声が小さく、遠くの生徒まで声が届きません。
意見を述べる生徒がいる一方で、雑談をしている生徒も・・・。
そこで坂橋カメラマンは、車座になって話し合うことを提案。
ホワイトボードを囲み、次第に活発な意見が飛び交うようになりました。
開田の歴史、名物、自然、伝統・・・などが挙げられましたが、最終的には「第三春山号と開田全体のこと」に決定。
「一人一人がこれだ!と思えるものを見出すように」と、坂橋カメラマンは、番組作りが他人任せにならないよう注意を呼びかけました。
指導スタッフは、ディレクター、アナウンサー、カメラマンの3名。
それぞれの形で進められる話し合い、スタッフの教え方も個性的です。
同じ番組作りでも切り口は様々で、同じものが出来上がることはありません。
作り手の視点や考え方、価値観等によって、作品の仕上がりは全く異なります。
番組作りでは、人と人とのコミュニケーションが不可欠です。
異なる考えをまとめ、意思の統一を図り、同じ方向性を目指して進んで行くために・・・時には意見のぶつかり合いも避けられません。初めは自分の意見を述べることに対して消極的だった生徒たちでしたが、次第に司会者としてリードする者、黒板にまとめる者・・・といった役割分担が生まれ、その中で自分らしさを出していました。話し合いの場を通して、徐々にではありますが、生徒たちの姿勢に変化が感じられました。
7月12日(月) [第3回出前授業] テーマ:「中間発表」
  曖昧だった番組のテーマもようやく煮詰まり、タイトルが正式に決定。
学年ごと、ディレクター、カメラマン、リポーターなどに別れて、生徒達は取材を進めて行きます。
第3回目の授業では、制作途中の作品の中間発表を行いました。
BGMは敢えて入れず、ナレーションと映像のみを視聴し合います。
1年生 タイトル:「開田高原にいらっしゃい~我ら1年A組おすすめ風景~」
「1年生が勧めるBEST3」として風景を取材したようですが・・・テープに入っていたのは、白樺のみ。
映像で何を伝えたかったのか、そのどこが素晴らしいのかが伝わって来ません。
「なぜ、それを選んだの?」、選んだ理由や伝えたいものを再考することになりました。
2年生 タイトル:「開田のこと教えちゃいま~す」
植物→気候→開田高原→木曽馬牧場という流れで番組を構成。
コメントと映像が一致していない、スーパーがある所と無い所があり、統一が取れていないなど、何気ないミスが指摘されました。
アイスクリームやそばなど映像で見せてはいるものの、やはり番組を見る人は、実際に食べているところが見たいのでは?との声に、新たに試食のシーンを入れることに決定します。
また、お店のパンフレットを使用する際に許可を得ていなかったため、改めて電話で許可を取ることとなりました。
3年生 タイトル:「最後の木曽馬 第三春山号」
ナレーションが早すぎて聞きづらい、無意味な映像が沢山あるなどの意見が挙げられました。
映像が揺れて見にくいため、カメラワークについて動きすぎないようにと坂橋カメラマンから指摘を受けました。
3年生のVTRを観た後、同じ内容で、テレビ信州のアナウンサーが読んだナレーションを流し、聴き比べました。生徒たちからは、「声のトーンを変えていていいと思った」、「ゆっくり分かりやすく読んでいた」などの声が挙がり、それらの点に注意してもう一度ナレーションを読み込むことになりました。

9月14日(月) [第4回出前授業]
  番組制作中の生徒達を訪問。
生徒達は、中間発表での指摘や意見を生かして、「ここはこうした方がいいんじゃない?」とそれぞれ意見を述べ合いながら、作品を手直ししていました。
生徒達からは、「この映像を観たら目が回りそう」、「もっと他の角度からも観てみたい」など具体的な意見が挙げられました。
10月4日(月) [第5回出前授業] テーマ:「作品発表」
  6月から行われてきた出前授業もいよいよ最終回です。
各学年ごとディレクターが制作意図や注意した点について語り、完成したVTRを発表します。

全校投票を行った結果、3年生のVTRが代表として選ばれました。
3年生のVTRは、ニュースプラス1で放送することに決定されました。
10月25日(月) [ニュース中継の日]
  これまでの開田中学校の生徒たちの取り組みを伝える、いわば総まとめの日です。
初めて見る中継車に「ここから電波が飛ぶんだ」と生徒たちの顔には驚きの表情が。
最初に、中継のしくみについてスタッフから説明を受けます。

そして迎えたニュース本番。
全員の顔が見えるように、学校のらせん階段が舞台です。
ニュースの冒頭では、これまでの生徒たちの取り組み、3年生の作品のVTRを放送。
続いてアナウンサーが代表の生徒に番組制作についてインタビューをしました。
 
アナウンサー: 番組作りで一番、大変だったのはどの辺ですか?
生徒: 始めの話し合いで各部署での意見が合わなくて大変でした。
アナウンサー: 番組で伝えたいことは十分に伝えられましたか?
生徒: 思うように伝えられました。
アナウンサー: カメラマンとして、撮影で苦労したところはどんなところですか?
生徒: イメージしている番組に合った映像を撮るということが凄く難しかったです。
最後の総まとめとして行われた生中継。
「自己表現力」を測る物差しはありませんが、番組中、はきはきと番組制作の苦労や感想について述べる生徒たちの姿を目の当たりにして、スタッフはその変化を肌で感じました。
 
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