影アナ席の私からは、何が起きたのか分からなかった。
「切れたって!」「何本?」「続き、どこから?」
スタッフやマネージャー氏が舞台袖を慌ただしく動き回る。
舞台上の演奏は、第二楽章を終えたところで止まっている。
ほどなくしてピアニストと指揮者が腕を組むようにして
バックヤードに戻ってきた。
「ブラボー、ブラボー!」
マエストロはピアニストを笑顔で称えている。
その会話から初めて、演奏中にピアノの弦が切れたことを知った。
ピアニストは辻井伸行さん。何度もご一緒している世界的奏者だ。

ハプニングが起きたのは、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。
第2楽章を演奏し終えたところで辻井さんが立ち上がり、
客席に向かって肉声で、弦が切れたので待ってほしいと説明、
いったん舞台を退いたのだ。見事な機転だった。
客席もオーケストラも、ざわつくことなく穏やかな雰囲気で
調律師さんの張り替え作業を見守った。
15分にも満たなかっただろうか、張り替えが終わると同時に
客席からもオーケストラからも自然な拍手が沸き起こった。
再び登場した辻井さんは、残る第3楽章とアンコール曲を
圧倒的な熱量で弾ききった。
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写真は、私の影アナ席モニターから見えるホール内映像。
20分遅れでの後半再開を待つお客さんたちも、
何事もなかったように穏やかだった。
ともすれば張り詰めがちな突発事態の空気を、
さりげないひと言で和ませる辻井さん。
そのプロ意識の凄さを垣間見た思いがした。
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きれいな花には棘(とげ)だけでなく「毒」もあるんです。
TSB近くで道路わきで見つけた鮮やかなオレンジ色。
ナガミヒナゲシというケシ科の外来植物で、
樹液(汁)に直接触れると皮膚がかぶれる恐れが。
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症状には個人差があるものの、うっかり触れたり
摘んだりしない方がいいとのこと。
繁殖力の強さも今後の課題。綺麗な花にはご用心を。
鎮火した山火事の跡に初めて入って、驚いた。
斜面一帯が一面焼けているのではなく、
焦げた跡が点々とまだら模様に散っている。
ああ「火が飛ぶ」とはこういうことか、と。


現場は松本駅から南東へ4㎞の、松本市中山の山林。
山並を超える空気が乾燥しやすいこの時季、
松本の地形は、いわゆるフェーン現象が起きやすいという。
様々な要因が、山を2日間も燃え続けさせたらしい。

鎮火後の周辺では、何事もなかったように
田起こしの作業が続けられていた。
(写真=棚田の後方奥が火事のあった山林)
大型連休1週間前の日曜、松本市内の高校に
フリーのアナウンサーや局アナなど5人が集まった。
(写真:松本蟻ケ崎高校で。うち1人は私です)

毎年恒例となった高校生向けの放送技術講習会。
今年の各種放送コンクールに挑む生徒を対象に
アナウンス、朗読、撮影、番組制作などの技術を
現場の専門職である我々が教える場なのです。
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嬉しかったのは、8年前の放送コンテスト「TSB杯」に
出場した当時の生徒さんが、地元の局アナとして里帰り、
今回の指導陣に加わって下さったこと。
(写真中央:テレビ松本アナウンサー・根津 葵さん)
伝わり、繋がり、拡がっていく嬉しさ。
言葉と放送の世界に若い仲間が増えていく嬉しさでもあります。
例年のことながら新年度が始まった直後は
賑やかな大学のキャンパス。
だが今年の賑わいはひときわな気がする。

コロナが明けて初めての年度初めだからだろうか。
新入生で溢れかえる信州大学松本キャンパスの混雑は、
何年振りかと思わせる会話と笑い声と
サークル勧誘の声が飛び交っていた。
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メディアリテラシーをテーマに据えた私の講義が
今年もまた始まった。週に一度の稚拙なゼミも、
数えてみたら今年でもう15年目である。
私こと今年度は「特任准教授」なる肩書になり、
責任の重みに戸惑いながら、にわか先生はまた
日々迷いながら教壇に向かいます。