2022/12/21 父の上野駅

‟本読み"だった父が他界して間もなく7か月。

実家で彼の書棚を整理していたら

淡い紺色の背表紙が目に留まった。

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推理小説に被せられたブックカバーは、少し日焼けしていた。

印刷された電話番号は局番が一桁少なく、

地図を検索しても、この書店名はもう存在しない。

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高校を卒業後、すぐに上京して就職。

結婚を機に長野に戻ったと、母から聞いていた。

晩年は遠出することもほとんどなかったが、

私が東京の大学に進学した時、

昔の東京の話をする父の声が

いつになく弾んでいたのを思い出す。

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新幹線のなかった頃。父にとっての東京は

上野にはじまり上野に終わる、そんな時代だったのだろう。

「上野」という活字から、遠い日、東京に暮らした

父の気配がすこしだけ感じられた気がした。

本は処分したけれど、このブックカバーだけは

今も捨てられずにいる。