2020/09/17 「風立ちぬ」の時代に

「戦争と戦争に挟まれた束の間の平和な時代だったんでしょう」
飛行士を大叔父に持つ男性は、こう話してくれた。
日本中の夢を乗せて大空を飛んだパイロットがいる。
その人物の足跡を、安曇野市の生家に訪ねた。

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■「AIR&SPACE」8月号/米国立スミソニアン博物館刊
■掲載写真は飯沼飛行士記念館(安曇野市)提供


彼の名は飯沼正明。長野県南穂高村(現・安曇野市)に生まれ
1937年に東京~ロンドン間を94時間17分の世界最短で飛んだ。
きっかけは先月出版されたアメリカの航空専門誌に
彼の功績が特集され、再びその記録が注目されたことだ。
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「嬉しかったですね、今になって世界が注目してくれるとは」
笑顔で話してくれたのは飯沼成昭さん。飛行士の兄の孫にあたり、
今は亡き飛行士の生家を、記念館として管理しておられる。
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「神風」という機体名は戦時中の特攻隊を彷彿とさせるが、
実は戦争とは無関係。東京朝日新聞(当時)が企画した
日英親善飛行のために一般公募で選ばれたものだ。
大空へ、海外へと夢が花開いていた時代の空気が窺える。
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記録が達成された1937(昭和12)年の航空史を紐解くと、
宮崎駿監督の映画『風立ちぬ』の主人公である堀越二郎が
零戦(零式艦上戦闘機)の設計に着手したのがこの年であり、
日本の航空技術が頂点に向かっていた時期でもある。
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一方で、同じ年の7月には日中戦争の発端となる盧溝橋事件も。
飯沼成昭さんが語った「束の間」という意味が重い。
戦争の気配が濃くなる時代に、軍人ではなく民間飛行士として
飛び続けた信州人の足跡を改めて知りたいと思った。
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今夜の「news every.」(18:15~)でお伝えする。