2024/05/20 辻井さんの機転

影アナ席の私からは、何が起きたのか分からなかった。

「切れたって!」「何本?」「続き、どこから?」

スタッフやマネージャー氏が舞台袖を慌ただしく動き回る。

舞台上の演奏は、第二楽章を終えたところで止まっている。

ほどなくしてピアニストと指揮者が腕を組むようにして

バックヤードに戻ってきた。

「ブラボー、ブラボー!」

マエストロはピアニストを笑顔で称えている。

その会話から初めて、演奏中にピアノの弦が切れたことを知った。

ピアニストは辻井伸行さん。何度もご一緒している世界的奏者だ。

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ハプニングが起きたのは、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。

第2楽章を演奏し終えたところで辻井さんが立ち上がり、

客席に向かって肉声で、弦が切れたので待ってほしいと説明、

いったん舞台を退いたのだ。見事な機転だった。

客席もオーケストラも、ざわつくことなく穏やかな雰囲気で

調律師さんの張り替え作業を見守った。

15分にも満たなかっただろうか、張り替えが終わると同時に

客席からもオーケストラからも自然な拍手が沸き起こった。

再び登場した辻井さんは、残る第3楽章とアンコール曲を

圧倒的な熱量で弾ききった。

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写真は、私の影アナ席モニターから見えるホール内映像。

20分遅れでの後半再開を待つお客さんたちも、

何事もなかったように穏やかだった。

ともすれば張り詰めがちな突発事態の空気を、

さりげないひと言で和ませる辻井さん。

そのプロ意識の凄さを垣間見た思いがした。

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