29.5日おきに巡ってくる天空の月にも
それぞれ名前があることを教わった。
4月の満月を「ピンクムーン」と呼ぶらしい。
「桜色がひろがる季節にのぼる満月だからピンク。
4月だけの呼び名なんですよ」とは
鈴木智恵・気象予報士からのご教示である。

【長野市の空にのぼったピンクムーン/27日午後10時前】
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ものの本で調べてみると、アメリカ先住民がこう呼んだらしい。
一部を挙げてみると・・・・・・
1月=ウルフ(狼が腹を空かす時季)ムーン
6月=ストロベリー(苺の熟す時季)ムーン
10月=ハーベスト(収穫の頃)ムーン・・・等々
季節と一緒の生活感が伝わってくる名称に暫し感心。
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以下余談。3年ほど前の冬、善光寺門前で
劇作家・唐十郎さんの劇団員の女優さんと対談した折、
彼女が朗読した作品が「満月の中の満月」(唐十郎作)。
「バドリルブドゥールって読むんですよ、これ」
満月を、アラブの言葉でこう呼ぶのだと教わった。
月の名前は実に奥深い。それにしても、寒い月夜だ。
「皆で集まることがむずかしい。
声を掛けることさえ憚られる。
どうしたもんでしょうねえ」
先日会ったある候補の陣営担当者は
困惑顔で宙を睨んでいた。

【写真=上田駅前で選挙演説を聴く人たち/24日夕】
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参議院長野補選最終日の夕刻、2人の候補の遊説を
日が暮れかけた上田市内で聴いた。
人通りの多い商業施設や駅頭での訴えだが、
"密"を避けるためか、立ち止まる有権者は多くはない。
コロナ禍は明らかに選挙の風景をも変えていると感じる。
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「終盤戦には支持者と顔を合わせ、声を交わすことで
団結意識や結束感って高まると思うんです。
それが出来ると出来ないでは票の伸びも違います」
(前出・陣営関係者)
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候補者との距離が即ち、有権者と政治の距離ではないはず。
それでもどこか政治が遠い気がするのは、
私たちの命や生活に関わるコロナ禍などの諸々に、
政治がきちんと向き合っている実感がないせいなのか。
3つの国政選挙の結果が出た昨夜からきょうにかけて、
「距離」という二文字についてずっと考えている。
新年度がスタートし、仕事場の景色も変わりました。
席替えだけでなく、番組キャスター陣も一新。
若手や中堅と呼ばれた面々がメイン席に座り、
ちょっとぎこちなさが見えたりもしますが
番組を懸命に執り回す姿に、遠目でほくそえんだりしています。

【写真=4月からevery.メイン席の鈴木恵理香キャスター】
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私自身、新年度は報道キャスターから少し離れ
本来の「解説業」に極力傾注する日々を送っています。
国政選挙、コロナ変異株、食と経済などなど、
ある意味「何でもあり」の過酷な中身ではありますが(笑)。

年度が替わるちょっと前、私自身は眼鏡を新調しました。
何のことはありません、老眼が進んだだけのことでして。
長年お世話になっている内科医の先生と話していたら、
「伊東さん、眼鏡変えたでしょ?」
「分かりましたか。実はちょっと進みまして」
今更、主語(老眼のこと)を言わずとも伝わる会話。
「はは、順調ですな」と先生。
「順調、ですか?」
「階段の昇りがキツくなったり、人の名前が思い出せないとか、
それと一緒です。年齢を重ねればそれが順調ということです」

以来、新しい眼鏡をちょっとだけ堂々と掛けています。
順調、順調、自分に言い聞かせながら。
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生放送直前、原稿に追い込まれ目尻が吊り上がりぎみの
若手キャスターを横目で見ながら、
「君たちも順調、順調」と心の内で呟いております。
急に季節が入れ替わったような陽気に
春コートなしでも戸外を歩ける日中です。

取材先の南信・駒ヶ根市内で立ち寄った食堂での一枚。
出されたコップが、厚みあるレトロなデザインで、
窓から差し込む陽差しが何とも小洒落た光景を作っていました。
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年度替わりの今、TSB社内もあちこちで机の引っ越し作業中。
花を見上げてもよし、身近なものをじっと見やってもよし。
弥生の終わり、やはりそわそわしますな。
最近、何度も何度も読み返している1冊がある。
『103歳になってわかったこと』(幻冬舎新書/2015年)。
美術家の篠田桃紅(しのだ・とうこう)さんの著書だ。
ご存命であれば、今週末28日が108歳の誕生日だった。

3年前、上田市で開かれた作品展に合わせ
桃紅さんの道程を辿ったドキュメンタリー制作に
関わらせてもらった。著書もその時に購入したものだ。
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海外旅行に行く日本人が年間数万人の時代に、
独り和服姿でアメリカ行きの旅客機に乗り込んだ桃紅さん。
その自由闊達な画風(書風)で世界のファンに愛された。
「誰の真似でもない。私だけの書き方」
「弟子なんかとろうと思ったことは一度もない」
「人はひとりっきりで生まれてくるんです。
そしてひとりっきりで死ぬんですよ」
(テレビ信州のインタビューより)
その力強く歯切れよいひと言ひと言が
見る者、聴く者の背中を押してくれる。
孤独がすなわち寂しいものではない、
孤独とは時に豊かなものである。
桃紅さんの姿勢から、私はそんなことを教わった。
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生涯独身、ひたすら水墨と紙に向き合った
篠田桃紅さん、享年107。
訃報から3週間。あの番組は私にとって宝物である。